えげれす通信、再び

20年ぶりに復活しました

【旧】えげれす通信_vol27:Deepなツアコン (02/09/1999)

現在、学部サークル時代の大阪の先輩が来英中である。僕は、彼を、「ちとDeepなえげれすツアー」に誘うべく、昨日は海&羊、今日はバスで適当な街に行きパブる、と順調にこなし、明日は何故か、マンチェスターに行くことになっている。彼もまた、人と同じことを嫌う人なんで、プランニングはなかなか楽しい。

 
今回のコンセプトは、表向きは、「イギリスの文化に触れる」、しかし、真の目的は、「えげれすがどんなに不味いかを知らしめる」というものである。帰国してから、えげれすというものについて、周りに切々と説いて貰わなければならないので、ここは大切なポイントである。僕が自分で言うのと、第三者が言うのとでは、信憑性に差が出る。で、そのための三大兵器は、以下。

 
第1弾。イングリッシュソーセージ。これは、昨日のパブ飯だった。彼曰く、「まぁまぁやな」。

 
-まだ、余裕だわな。でも、じき、このジャブが効いてくるはず。

 
第2弾。フィッシュ&チップス。今日行った、リッチモンドでのパブ飯。彼曰く、「めっちゃ、旨いやん」。

 
確かに、今日のフィッシュ&チップスは、小奇麗で、旨かった。パブ飯として食うべきではないのはわかっていたけど、妥協したのは良くなかった。本当は、街中のきったないfishbarで、買い食いしなければならなかった。油ベトベトで、紙にくるまった奴を、どこが魚でどこがイモかわからんくらいの感じで食うべきだった。

 
-しまった。このフィッシュ&チップスは、確かに旨い方のヤツだ。一発目のパンチの衝撃が、薄れてしまう。

 
僕としては、最終兵器に、ベイクドビーンズをとってあるんだけど、まだ教えていない。これで、確実に彼を、マットに沈める自信はあるんだけど、その前に、一つ、クッションを挟むことにした。そこで、考えたのが、うちの寮食。何度も書いてある通り、うちの寮飯は、凄まじい攻撃力をもつ。

 
今日のメニューで、効き目がありそうなのは、

「ライス」
「スープ」
「茹でブロッコリー

 
他の品物は、割と旨そうだったので、この三つに焦点を絞った。

 
うちの寮食はビュッフェスタイルである。順に進んでいき、欲しいものの部署で欲しいものを貰う。しかしそうなると、上の三点を取らない場合もあり得る。さりげなく勧めようと思っていると、彼は、自主的に、これらを全て貰っていた。

 
ライス。彼曰く「これは、ご飯とは別もんやな。そう思えばええんや」。

 
-うむ。そりゃぁ、そうだな。確かに理にかなっている。

 
スープ。「うーん」。

 
-お。唸り出した。

 
ブロッコリー。「・・・」。

 
-おお。言葉が消えた。

 
暫くして曰く、

 
「オレは、大概のもんは、食う。食える。大抵残さへん。でも、これは、不味い。食われへん」

 
その後、周りを見まわして、曰く、

 
「(笑)。何で、みんな、嬉しそうに食ってんのん??」

 
-どうやら、「クッション」だけど、かなり、ミゾオチあたりに入ったらしい。

 
ある程度の満足感を持って、我々は再びパブに行った。先輩氏は、これまで、えげれす文化に触れるという意味で、最もえげれすらしいもの、最も伝統的なものを、食べ、飲む、という方針であり、パブでのビールは、基本的に、エールかビターだった。そしてその選択は僕に一任されていた。

 
然るに今回。自分のビールを頼み、さて、彼に何を勧めようかと思いながら席に戻ると、

 

 
-自分でラガーを頼んでいる。

 
「オレ、どうやら、ぼちぼちやられて来たらしいわ。辰吉でゆぅたら、知らん間に、マットに倒れていて、『何で、オレ、倒れてんねん』っちゅう雰囲気やな」

 
-そうすか。効いてきましたか。

 
「今にして思えば、ソーセージ、あれ、あかんヤツやわ。魚も、まだ、腹に溜まってる。なーんや、すっきりしたくてな。ここに、スーパードライあったら、間違いなく、それ頼んでるわな」

 
-ジャブも、効いたってことですね?

 
「昼に食ぅたパブ飯な、あれの横に、ちょこんと付いてた丸ごとの、酢付け玉葱。『何で丸ごとやねん』て思ったけど、『きっと、おっちゃん、作るときに、切るのん忘れたんやな』て思ったけど、食ぅたんや。『うぅわ、きっつ』て思ったけど、あんな、脇役みたいなもんにも、じわじわやられてきたんかな」

 
-野菜丸ごとは基本っすからねぇ。

 
「オレ、既に負けてるかもしれんけど、まだもう一日あるしなぁ。ここで、悪いけど、一回、リフレッシュさせて」

 
どうやら、自覚症状はないままに、ちんけな兵器にじわじわやられ、寮飯のブロッコリーで、一気に爆発したらしい。

 
僕は、トドメを刺すことにした。無慈悲に見えるが、介錯は漢の礼儀である。しかも、最終兵器の、ベイクドビーンズは温存しつつ、である。ヤマトで言えば、波動砲は使わず相手を倒す、みたいな。ガンダムで言えば、ボールとジムでザクを倒す、みたいな。

 
僕は、とある味のポテチ(こっちではクリスプスと言う)を買って、彼にあげた。

 
「これ何?」

 
-ポテチです。但し、これを、今、食えば、貴方は間違いなく、マットに沈むでしょう。

 
「ただのポテチ、ちゃうのん?」

 
-ただのポテチです。だから、えげれす人は、これが大好きです。でも、これは、日本に帰ってから、食った方がいいと思います。

 
「これ、今食ったら、オレ、沈むか?」

 
-沈むでしょう。辰吉は、二度と、起き上がれないでしょう。

 
知ってる人もいるだろうし、勿論好きな人もいるだろうけど(僕自身は、結構好き)、最初に食べるインパクトはかなりのものがある、「Salt&Vinegar」味のポテチ。僕も、初めて食べた時は、あまりの刺激にのけぞったけど、実は、これは、えげれす人の、一番人気なのである。

 
とにかく、めちゃ、酸っぱい。嘗て日本でも販売されていた、カルビーのフレンチサラダ、なんてもんじゃない。

 
「今晩、部屋で開けてしまいそうやな。明日、もし、自らパブでラガー頼んでるオレがおったら、『あ、開けてもぉたんやな』と思って」

 
-思っときます。

 
「ところで、三大兵器の最後って何?」

 
僕は、最終手段のことを仄めかした。

 
-ここにいる、えげれす人全員が好物で、もし朝飯にそれがなかったら、『なんで、おかん、今日買ってないねん』って怒るようなもんです。

 
「日本にあるもん?」

 
-ブツとしてはよく食いますね。ただ、こいつは、『何で、そうするねん』という料理法ですね。

 
「野菜?」

 
-もう、これ以上は、やめときましょ。

 
ベイクドビーンズの缶詰は、後で渡して、日本に持って帰ってもらうつもりである。

 
「飛行機ん中で、つまんでもええ?」

 
-いいけど、韓国上空あたりにして下さい。間違っても、ロシアの上とかでは、食わないように。まだ、先、長いですから。

 
「それは、どこで買えんのん?」

 
-どんなところでも。どんな田舎に行っても、それを売る店だけは必ずあります。ないと、ほら、各家庭のおかんが怒られ、おかんは暴動を起こし、街が潰れますから。

 
という訳で、先輩氏は、ソルトビネガーのポテチを今晩食わなければ、持ち帰った日本で、それとビーンズを食べ、辰吉引退、という結末を迎えるでしょう。時限装置付きの、波動砲をセットしたみたいで実に気持ちがいい。

 
では。