えげれす通信、再び

20年ぶりに復活しました

【旧】えげれす通信_vol16:ジョン絶好調 (21/03/1999)

最近は、結構テレビにはまっていて、映画も良く見るし、歌番組もドラマも割と良く見ているんだけど、流石に聞き取りは難しい。

 
それはひとえに、自分がそこに参加している生トークではないということと、俗語や口語が多いということに尽きる。

 
うちらは、英語学校ではないので、日常会話には弱い。アカデミックイングリッシュには強くなり、読み書きにも慣らされるが、日常の世間話になると、なかなか難しかったりするわけである。

 
来週は試験である。昨日は、Term2の最終金曜日であった。そして金曜日最後の授業はIELTS。僕のかなり好きな先生の一人、ジョンの担当である。

 
Term最終日の最終授業ということもあって、授業に行ってみると、果たして、人が来ていない。僕と友達の、二人であった。

 
僕らは、予定通り、ジョンを飲みに誘うことにした。隣の、教育学部のパブ(いつも昼飯で行っているところ)に行きましょう、というと、ジョンもノリ良く「It's Friday!」と言う。

 
先ずはいつもの昼の様にカッフレイズ(アイリッシュエール)で乾杯。面子は、パブに行く途中で拾った学生2人を加え、僕ら学生4人+ジョンである。

 
17:00を過ぎると、先生連中が加わり出す。小ぢんまりの輪が、みるみる、膨らんでいく。

 
途中参加の先生の中には、なんと、あの鼻ピーサラがいた。僕は鼻ピーサラの授業を今週もサボったので、何だかやっぱり、視線を合わせられなかった(笑)。

 
同じサラの授業をとっており、かつ、サラファンでもある友人曰く、

 
「サラがね、玲さんに嫌われてるって言ってましたよ」

 
むぅ。なんとも微妙な感じだ。すれ違い同士の恋か?!しかし依然として、サラがこの輪に加わってだいぶ経とうかというのに、僕は挨拶もできていないのであった。

 
すると、何たることか、サラが僕の前にやってきて曰く、

 
「玲、飲み物、何がいい?」

 
と言う。

 
「...あ、じゃ・・・ワインを。。。」

 
しどろもどろにそう言うと、サラはワインを買ってきてくれた(笑)。

 
えげれすではパブの習慣として「ラウンド」というのがある。買いに行くときには、場にいるすべての人間に希望を聞いて、皆の分を買ってくる。次の人もまた、同じ事をする。厳密には違うにせよ、気分的には、お代がちゃらになる。一種の互酬性だな。なので、サラが注文を聞きに来てくれたことは、そう特別なことではない。すれ違いの恋が解消されたという訳ではない。否、恋だったわけでもない。それはそうなんだけど、ワインまで奢ってもらった日にゃ、ますます顔向けできなくなるよな(笑)。

 
輪にはますます人が増え続ける。先生の友人だの、その彼女だの、誰とどんな関係だかわからないフランス人カップルだの、謎の禿げのおっちゃんだの、はっきり言って、知らん人のほうが多くなってきた。「えげれす人がパブで座らない」「座席があっても決して座らない」ってのは、パブあるあるの一つなんだけど、一説によると、その理由はこれらしい。つまり、「輪」はどんどん大きくなるものであり、その輪にいる人は、知らない人でも仲間であり、仲間なので、場所を移動しつつ愉快に話すものであり、それは着席スタイルでは叶わない。だから「座らない」らしい。そして、こちらとしても、授業時間中から飲み始め、既に夜に突入しているし、ワインボトル2本+数パイントのビール+数杯のウィスキーを飲んでいるので、かなり酔っ払ってきた。みんな、誰だかわからんけど、なんだか愉快になってきた。

 
隣のジョンを見ると、ジョンも目が泳ぎ始めている。

 
「晩飯は食わないんですか?」
「いつもは食べるよ。でも金曜は、これが飯だよ。ハッハッハ」

 
・・・酔っ払いやんか。

 
そうであれば、もはや色んなことを聞いてしまえと思い、

 
「Susan(うちの組織のトップの女性)はどんな人?」
「ううむ。彼女は、先生ではないね」
「ほんなら何ですか?」
「マネージャーだな。金の事しか考えてない」

 
そう言って、ジョンは、瞬きをしながら、

 
「この動き(まばたき)みたいなもんだ。まるで、キャッシャーだな。£100、£200・・・」

 
ううむ。ジョンがノッて来たぞ。上司の悪口は基本やろ。そう来れば、次は。。。

 
「ところでサラは厳しいですよね」
「うん。彼女はSue(ジョンの彼女で先生)と共に、厳しい先生のうちの一人だね」
「怖いんですよ」
「でも、人間的には、とてもいい子だよ」
「Sueもいい人?」
「勿論。でも、人間的には、時々Violenceが入るけど」

 
そう言って、ジョンは、「Violence!Violence!!」と繰り返した。然し、続けて、

 
「尤も、そういう部分は、僕にしか見せないけどね」

 
おいおい。のろけかい。

 
ジョンは、呂律も怪しくなってきた。そこで、僕は、

 
「いつもは学術英語ばかりなんで、何か、俗語を教えてくださいよ」

 
とおねだりした。ジョンは、彼の友達と、その彼女と、三人で、しばし考えたあと、

 
「矢張り、fuckin'かな」

 
という。彼ら曰く、このフレーズは、たとえ使ったとしても、事態は大して深刻にはならないんだそうだ。修飾語的に気軽に使ってもいいんだって。

 
かなりいっちゃってるジョンとその友達は、周りに向かって、でかい声で、

 
「fuckin'」
「fucking you」

 
を繰り返す。僕が、

 
「I just wonder. Are you our teacher?」

 
と言うと、ジョンは、

 
「Sure. A fuckin' teacher!」

 
イッてもうた。

 
ところで、彼が言うには、言う時には心して言わないと、事態が大変深刻なことになる、「罵りの言葉」があるという。

 
「ものの本には、」とジョン。
「1から10まで、攻撃的段階が分けられて、罵りの言葉が載っている。つまり、1の段階なら、たとえそれを言ったとしても、事態は深刻にはならない。10に近づくと、攻撃性が増すんだ」
「ほう」
「cuntって知ってる?」
「知らないです」
「これは11番目だ(ニヤリ)」

 
お。流石に黒いジョークの国。ただし、この単語は、使ってしまうと、ほんとにバトルになるくらいの破壊力をもつものらしい(意味は書けない)。

 
何だか彼は復活してきたみたい。

 
「大丈夫っすか?」
「おう。こういうのを、second windというのだ」

 
酒を飲んでいて、一旦つぶれ、時間がたって、復活することをこう呼ぶらしい。なかなか趣深い表現である。

 
さて、トイレに立ったついでに、僕は席を替わってみた。フランス人の、なかなか色っぽいゴフジン(「おばちゃん」と言うのが憚られる)の隣へ。挨拶を交わし、世間話を始める。

 
彼女は、話の振り方がなかなか上手く、流石に、ラテン系である。「輪の中は、誰でも仲間」精神は、こういった社交性を背景に、構築されているよなあ。そしてそれは、流石の欧州人だ。この手の社交性だけは、アジアには全く見られず、欧州由来のものだとしみじみ思う。

 
ゴフジンは、フランス人の割には、フランス訛りがあまり入らない綺麗な英語をしゃべる。

 
「貴方の苗字は?」
「難しいですよ。発音できるかな?」
「私のも難しいわよ」
「何て言うんです?」
「××××(←忘れた)」

 
でも、僕は、学部の時にフランス語やっていたおかげなのかどうなのか、「うまいわ」と誉められたのであった。

 
たけなわのあたりで、大陸系の「社交的キス」の話になった。これは、しかし、英仏では微妙に異なる。えげれすでは、それほど、登場しない。一方、大陸では、割と登場する。しかしその呼吸というか、タイミングというか、そのあたりがわからない。どのくらい親密になれば、それをするのか?していいのか?

 
ゴフジンは何だか色々説明してくれたけど、結局曖昧なようだ。別れ際、僕は、ゴフジンに、

 
「実践を教えてください」

 
喉まで出かかったが、隣にいるダンナらしき男性もかなり好感の持てる人だったので、すんでのところでぐっとこらえ、言うのやめた(どんな理由よ)。

 
ではでは。


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【2023年からの振り返り】

そうそう、こんなこともあったねえ。エデュケーションのパブは、昼飯で毎日通い、学期最後の頃には、それこそ「輪」がどんどん大きくなったものだけど、昼に「メシ」は食わず、ひたすらビール(カッフレイズ)を飲んでいましたな。先生を交えて飲んだ機会はそうそう多くはないけど、こういうことが「あり得る」のも、パブの良きところかな。