えげれす通信、再び

20年ぶりに復活しました

【旧】えげれす通信_vol04:大きな機関車ゴードン (日付不明/10/1998)

えげれすモノといえば、巷(日本)では、teletubiesなどが流行っているみたいだけど、あんな可愛くないもんじゃなく、僕の子供の頃に戻って思い起こせば、文句無しに W.Awdry の絵本なのだ。
 
最近(でもないか)、ポンキッキ絡みで「トーマス」がメジャーになり、日本でも大々的にヒットしたけど、この本の一冊目「The Three Railway Engines」が出版されたのは、何と1945年。完結となる26巻「Tramway Engines」が出版された1972年に至るまで、大体1~2年に一度、刊行されていたことになるわけです。
 
僕がこの本に出会ったのは、確か、幼稚園か小学校の頃。最初に叔母かなんかから、この絵本の8巻「Gordon The Big Engine」(勿論日本語訳だけど)を贈られたんだな。で、うちのおかんが、その当時、手に入るだけ集めたらしく、結局うちには、1~15巻までがそろっていた。
 
僕が、鉄道に興味を持ち、それが旅好きにつながり、結局今、異文化に興味を持っている、ということの原点の一つは、確かにここにある。
 
巷では、やたらトーマスばかりがちやほやされているらしいけど、僕は、「ゴードン」から入っているが故、やはり彼がご贔屓である。トーマスみたいな、あんな、生意気な、こちゃこちゃした機関車より、多少傲慢だけど、情にもろい、しかしその力を誰もが認めている「ゴードン」こそが、かの世界の「トップ」でしょう。
 
実際、その8巻には、その傲慢さゆえにゴードンが失敗をヤラカシてしまうエピソードがある。生意気なトーマスは、彼の失敗をあざ笑う。しかし、その後、今度は、トーマスが失敗をヤラカす。すると彼は、トーマスのヤラカシのフォローを自らかってでる。んー、なんたる「いい奴」!
 
「急行列車を引く」というのは、なかなかに「大役」である。パワーやスピードなど、能力を兼ねそろえていないとできない、大変な仕事である。そして、かの「ソドー島」の機関車たちの中で、この大役を務めることができるのは、ゴードンを筆頭に、他にはせいぜい、ヘンリーかジェームズまで。エドワードは、たぶんかつてはできたけど、今は歳を取り過ぎて難しいだろう。トーマスなどというコワッパには到底務まらない(知らない人には全くごめんなさい)。
 
週末、車を借りて、ウェールズイングランド中部をまわってきました。
 
ウェールズで思い出したんだった。件の絵本。僕は、UKを構成する四つの「王国」のうち、一番マイナーと思われる「ウェールズ」の名前を、この絵本の「ヘンリーの話」で覚えた。ヘンリーは、非常に自尊心が強い、割とヤな奴である(基本的に、全員、なにかしらヤな奴である)。彼は、構造的な欠陥をもっていた。火室が小さいのである。火室が小さいので、質の悪い石炭だと、石炭が効率良く燃えず、充分な温度を保てないらしい。なので、彼は、いつも「胃痛」を抱え、いつもどこか、顔色が悪い。プライドが高く、いつもイキっているんだが、イキりながらすぐに胃痛を起こしてしまう。藤木くん・・・?まあ、彼は、イキリではないか。
 
次の引用は、6巻「Henry The Green Engine」の「Coal」というエピソードから。
 
“What do you think is wrong, Fireman?" asked the Fat Controller. The Fireman mopped his face. “Excuse me, Sir,” he answered, “but the coal is wrong. We've had a poor lot lately, and today it's worse. The other engines can manage; they have big fireboxes. Henry's is small and can't make the heat. With Welsh coal he'd be a different engine.”
“It's expensive,” said the Fat Controller thoughtfully, “but Henry must have a fair chance. James shall go and fetch some.” [op.cit.pp.90-91]
cf) the Fat Controller;邦訳「ふとっちょの重役」。偉そうだけど、実は誰よりも彼らの働きぶりを評価している、この鉄道会社のおえらいさん。テレビでは「トップハム・ハット卿」。

 

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というわけで、僕の人生に「ウェールズ」という言葉がインプットされたのは、この機会においてであった。
 
ちなみに、この絵本シリーズが僕に与えた影響、というか、単にえげれす情報を与えてくれたというだけなんだけど、それは結構大きい。
 
まず、ロンドンのターミナルについて。
 
例えば、大阪なら、「大阪駅」が存在するのは、JRだけで、他のターミナルは、行き先別、あるいは会社別で、「梅田」「淀屋橋」「難波」「上本町」「天王寺」「阿部野橋」「西九条」等、いっぱいある。
 
ロンドンには、「ロンドン駅」というのは存在しない。数的に言うとヨーロッパで最大のターミナル数だそうだけど、「キングスクロス」「セントパンクラス」「ユーストン」「パディントン」「ヴィクトリア」「ウオータールー」「チャリングクロス」など、その他ちっちゃいターミナルを入れると、「リバプールストリート」「マリルボン」「ロンドンブリッジ」とか、まだまだあるんだけど、要するに、行き先別に、ターミナル駅がいっぱいある。そしてこのことを知ったのも、件の絵本からである。
 
「the Fat Controller」たちは、マン島とイギリス本土カンブリア州の間に存在するとされる、Sodor島という架空の島の鉄道にいる。本土側とは可動橋で結ばれているという設定。機関車たちは主として、島内の鉄道輸送を受け持っている。列車には「島発ロンドン行き」もあるが、彼らは、島の鉄道の終点まで、客車をけん引し、そこから先は、別の鉄道会社の機関車に、客車を引き渡すことになっている。その接続駅では、別会社の機関車と一緒に、車庫で一泊することになっている。
 
つまり、彼らのほとんどは、島から出たことがなく、ロンドンへ行った経験はない。ただ、ゴードンとダックのみが、ロンドンに行った事があるらしい。ゴードンは若かりし時に一度行ったことがあるとかで、車庫内で自慢気にそれを語りだす。すると、かつて大西部鉄道(Great Western Railways)で働いていたダックと、別会社の機関車も、その会話に入ってきた。ちなみに大西部鉄道は実在する会社であり、パディントン駅を基点に、主にブリテン島の西部を受け持つ会社である。
 
“When I was young and green,” he (Gordon) said, “I remember going to London. Do you know the place? The station's called King's Cross.”
“King's Cross!" snorted the engine, "London's Euston. Everybody knows that.”
“Rubbish!” said Duck, “London's Paddington. I know. I worked there.” [op.cit.pp.190-191]

 

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その後、別会社の機関車にトラブルが起こり、急遽、ゴードンがそのまま客車をけん引して、ロンドンまで行くことになる。またとない機会を得てゴードンはコーフンし、満面の笑顔でロンドンまで疾走する。

 

全開の笑顔

 
しかし、翌日戻ってきたゴードンは、なにやら難しい顔をしていた。ふとっちょの局長はその理由を尋ねる。するとゴードンは寂しげに答えるのだ。
 
“I expect he enjoyed himself. Didn't you Gordon?”
“No Sir, I didn't.”
“Why, ever not?”
“London's all wrong,” answered Gordon sadly, “they've changed it. It isn't King's Cross any more. It's St Pancras.” [op.cit.p.193]
 

ショボーン

そして絵本には、この下に註がある。
 
(この話にでてくる「ロンドンの駅」は、どれも、ロンドン市内にある、えんきょり列車のつく駅なのです。セント・パンクラス駅は、キングス・クロス駅の、すぐとなりにあります。)
 
素晴らしい!僕はこのエピソードで、「キングスクロス」「ユーストン」「パディントン」「セントパンクラス」の四つの駅名を覚えたのだった。

 

King's Cross Station

 

Euston Station

 

Paddington Station

 

St Pancras Station

 
僕が、去年初めてイギリスに来たとき、泊まったホテルが「ユーストン」の近くだった。スコットランドに初めて行った時に乗った列車の出発駅は「キングスクロス」だった。先日、ふとしたきっかけから、件の「大西部鉄道」の急行でブリテン島の南西部コーンウォールに行ったのだが、その時に利用した駅は「パディントン」。それぞれに、僕にとっては、想い出深い駅名なのであった。
 
で、例の「ウェールズ」。「連合王国」を構成するのは4つの国である。つまり、イングランドスコットランド、(北)アイルランド、それにウェールズ
 
ウェールズだけは、併合された当時、国旗をもっていなかったため、今はドラゴンの旗をかざしているけど、他の国の旗は、基本的に、ユニオンジャックに、含まれている。

 

ウェールズの国旗

 
ウエールズはと言えば、僕にとっては、「ヘンリーにとっての、いい石炭の取れるところ」という印象しかなかった。
 
しかし、ウェールズに来てみて、色々と考えるところが増えてきた。ウェールズにはケルトがあふれている。この文様にはまってしまった。
 
それに、地形的にも結構独特で、ブリテン島にしては、けっこう起伏が激しい。なだらかな丘陵が多いイングランドとは異なる。家は、イングランドに多いレンガ造りではなく、石造りが多い。基本的に、話されてる言葉はWelishだし。表示だけかと思いきや、実際しゃべってる。BBC Welishまである。むぅ、この地は、「イギリス(England)」ではないのである。
 
やはり、いろんな文化があるというのは、おもしろいね。基本的に、どこに行っても、草原と、羊がいるのは一緒だけど。あと「国境」があるのも興味深かった。「ここからウエールズ(国境)」という標識があった。確かに、スコットランドに入るときも「ここからスコットランド(国境)」という標識があるもんね。
 
車を借りて、1300kmくらい走ったぞ。日本だったら、高速代節約のため下道を走り、故に距離を稼げずにガソリン代も適度、となるんだけど、こっちじゃ、高速がタダで、しかも、高速以外のルートがない(主要道は高速仕様になっている)ので、どこまでも行けてしまい、結局、金がかかる。しかも、こっちは、ガソリンが高い(¥130~140/リットル)。
 
というわけで、僕のReading Week 休暇は終わってしまった。これで、さらに5週間が過ぎれば、1学期が終わり。その頃は・・・日本なわけだ。
 
では。また。

 

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【2023年からの振り返り】

 

テレタビーズ。懐かしいですねえ。日本でもチラとやってたのかな。

ゴードンの話は、ものすごく印象深くて、こどもの時分からこの三駅の名前は完全に覚えていました。なので、キンクロやユーストンの近くの大学に行くことになって、本当に感慨深かった。

ウェールズは、この後、たぶん、もう一回くらいは行ったのかな。スコットランドに比べると、行った回数は少ないですな。確かに、急峻な山が多い印象。あと、大西部鉄道でイングランド南西部のコーンウォールに行ったのは、結局、ここにチラッとでてくる、「ふと思いついて、エッセイ提出したその足で、ぶらっと行くことにした」プチ旅が最後になってしまった。ロンドンからもたいがい遠いのに、ダーラムに移ってしまうと、南西部はもう、果てしなく遠いのです。

 

ゴードンの話は、日本のポプラ社の絵本は1~15巻までしか持っていないけど、えげれすの本屋で、「Complete Collection」のハードカバーを見つけて、即、買った。これは僕の宝物になっております。

 

宝物