えげれす通信、再び

20年ぶりに復活しました

【新】えげれす通信2024_vol.07:ダーラムにハァハァしない奴は素人編 (17/02/2024)

小腹が減ったなあ。現在、朝の5時。レンタカーをアバディーン空港のオフィスに返却し、ホテルまで戻ってきたところである。超田舎の、「ムッシュ吉幾三エリア」で生き抜くコツは、「食糧を、いつ、どこでも、切らすな」であるので、常に潤沢に備わっている食糧の中から、和テイストのカップラーメンを食べる。昨今のえげれすでは、「カツカレー」が異常なほどの人気らしいと、前にニュースで知っていた。なんなら、「カツがないカレー」でも、「カツカレー」と呼ばれているらしいことを、ニュースで知っていた。

 

「カツ」の意味、わかってないやん

その、ある種のトレンドであるらしい「カレーヌードル(和食屋のITSU監修)」を買ってあるので、それを食べてみる。・・・旨いやないの。

 

本日の行程は、

 

アバディーン952→エジンバラ1225
エジンバラ1300→ダーラム1438

 

である。予約時に、なぜ、エジンバラで乗り換えなのか、と思ったが、本日、駅で確かめて、その理由が分かった。①はダーラムに停まらない。なので、後続の、ダーラムに停まる②に乗り換えろ、ってことなんだな。

 

本日は土曜日。だからなのか、始発のアバディーンから、結構、混んでいる。そして、途中駅から、どんどん、乗ってくる。なんだなんだ?通路に立つ人まで現れたぞ。そんなの、「平常時」のえげれすでは、見たことないぞ(「異常時=去年の、悪天候による交通障害」のえげれすでは、体験したけれども)。

 

エジンバラまでもうすぐの「Inverkeithing」駅にて、我が①列車は、動かなくなってしまった。LNERのサイトを見てみると、「the communication alarm being activated on this train」のせいで遅れているらしい。そもそも今は、「engineering work」の期間であり、キンクロまでの直通列車はない。全てが、倫敦の手前のピーターバラ(Peterborough)行である。色々と乱れているのに、「engineering work」ではない方の理由で遅れるって。。。大丈夫か?

 

結局18分遅れで、エジンバラに到着。①の降車ホームから②の発車ホームは離れており、重たいトランクを転がしてダッシュし、息が上がる。はあはあ、する。本日は、混乱の影響を、さほど受けずに済んだ。10分遅れでダーラム到着。

 

師匠と、感動の再会を果たす。師匠の奥さんも迎えてくれる。

 

今回は、本日一泊目が師匠亭、明日と明後日が、師匠リコメンドの、しかも、師匠亭から徒歩1分の、ホテル泊である。ちなみにこのホテルは、なんとなくの場所は把握しているけれども、詳細はまだ確認していない。車に乗せてもらい、師匠亭に到着。犬のフローラも元気なようである。

 

奥さんは、去年も断続的にしゃべっていたので、その「人となり」は、まずまず、よくわかっている。彼女がどういう経歴なのかは不確かだが、アクセントは洗練されている、完全にミドルクラスのもの、学術的素養も確か、ということはわかっている。その彼女と一緒に、早速、フローラの散歩に同道することになった。

 

奥さんはフローラにリードを繋ぐ。フローラは繋がれる時はじっとしている。街区を歩く時は繋ぎ、そうでない時は外す。繋がれる時も外される時も、以心伝心、はたまた、当意即妙、フローラはおとなしく、じっとしている。なんなら、状況の変化に応じて、彼女の方から、「繋がれ」に、あるいは、「外され」に、奥さんのところへやってくる。…いや、なんて賢い犬なんだ。

 

何度も書いていると思うが、僕は、犬が怖い。日本の犬は「信頼できない」からである。しかし、えげれすの犬は「信頼できる」。

 

墓地に入ると、フローラは、何かを予感したように、こちらを向いて座る。阿吽の呼吸で、奥さんは、緑色の「例のやつ」を足で蹴った。去年、師匠と散歩に行った時には、師匠は「例のやつ」を投げていたが、それは、「例のやつ」が「紐付き」だったからだと気づく。本日のやつは、ただのボールである。奥さんがそれを遠くに蹴るやいなや、フローラは瞬間的にコーフンし、走ってそれを取りに行き、咥えて戻ってくる。行儀良く座りながら、ハアハアする。

 

蹴る

 

途中、フローラが、草むらに入って出てこない。しばらくして戻ってくると、フローラが咥えている「例のやつ」がオレンジに変わっている。どうやら、その辺に落ちていた別物を、拾ってきたらしい。すると奥さんは、

 

「最初のはまた後で拾いましょう」

 

と言って、あっけなく「放置」を選択し、サクッと先へ進んだ。

 

…これぞ、「never mind 」の極意だ。。。

 

泰然自若。ハプニングにも、露ほども動じない。心の乱れを一切起こさず、凪のココロで軽く受け流す。まるで剣豪の、あるいは、禅の、境地だ。「そんなことも、あるでしょう」というココロの声が聞こえる。いや、聞かねばならぬ。

 

坂になっている広い丘陵に来た。「いつもの絶景」である。

 

贅沢な散歩やな

 

相変わらずフローラは、「例のやつ」を咥えて戻ってくると、奥さんと僕の脚元に交互に寄ってくる。そしてそれを、我々の脚先に置く。「エンドレス」である。「終わりが見えない作業」である。しかし、そこまで熱望されると、何度でも、蹴らない訳にはいかないではないか。しかも、そうなると、フローラのコーフン状態は上がっていく。さらに、作業のその間隔が縮まっていく。止まるところを知らない。

 

追いかけて、戻ってきて、ハァハァ
追いかけて、追いかけて、ハァハァ
追いかけて〜 追いかけて〜 お〜いかけて〜 ハァハァ♪

 

全員が、吉幾三の「雪国トランス」状態になる。

 

帰宅して、お茶を飲みながら、師匠と奥さんと、世間話をする。

 

「この前、スカンジナビアを周ってきたのよ」
「良いですねえ」
「ナルヴィクってところに行ったんだけど」
「僕も行ったことあります」

 

その後、僕の、スコットランド周遊話をする。

 

「北西部をぐるっと周ってサーソーまで行きまして」
「ウィックとかサーソーって、本当に何もないところよね」
「だがそれが良いんです」
「あなたは何故そんなところばかり行くの?」
「僕は、〈果て〉が好きなんですよ」
「なるほど!」

 

泥炭風呂の宿の話や、周った蒸留所の話をすると、奥さんが、食事の後にモルトを呑みに行きましょうかと誘ってくれる。最高の展開に、フローラの如く、コーフンする。ハァハァする。すると師匠は、

 

「僕は今日はあんまり酔えないんだ」
「ほう?」
「明日、教会の行事があって。僕はチェアマンなんだよ」
「そうなんですか」

 

僕は、明日のその行事に同道することになった。

 

さて、メシを食べに行く。町と師匠邸の間に、小さい中華レストランがあるのは知っていた。「広東フュージョン料理」と書いてある。そこに行くらしい。入ると、中は、小さくはなかった。驚くほど広く、素晴らしくオサレである。入口から覗いて予想していたのと違いすぎる。吹き抜けで、眼下にはウェイティングバーが見える、2階の席につく。

 

オサレやないかい

 

・飲茶タワー(例の蒸器が重なって出てくる)
・春巻
・カボチャコロッケのカレーソースかけ
・茄子の炒め物

などを頼む。

 

どれも旨かった

 

メニューに「sesame edamame」という謎料理がある。気になるじゃないか!師匠と奥さんに、「ニッポンの枝豆」について、アツく語る。

 

謎枝豆にハァハァ

 

出てきたのは、居酒屋標準レベルの分量の、フツーの、枝豆である。奥さんは、箸で摘もうと悪戦苦闘しているので、コレは手で良いんですよとレクチャーする。なんなら、ナイフとフォークで豆を出そうとするので、「枝豆標準スタイル」の何たるかをレクチャーする。奥さんは、最初の枝豆を、皮ごと全部、口に入れてしまい、丸ごと噛み砕いてしまい、枝豆は、まことに無残なことになっている。「枝豆作法」も、我々にとってはアタリマエでも、初心者にとってはアタリマエではないのかと、当たり前のことを想う。

 

なるほど確かに、胡麻油の風味がある。居酒屋メニューで「枝豆バター」なるブツを食べたことがあるけど、「枝豆胡麻油」ってのも乙なもんだな。ただし、これは、「標準枝豆」ではないので、念のため説明する。

 

「日本では枝豆はめちゃくちゃ一般的なんです」
「うん」
「だけどこれは、ちょい違います。普通は塩茹でです」
「まさにフュージョンだわね」

 

中華の箸は、先も太いので、滑るブツを掴むのは、なかなか難しい。春巻ホールドは最難関タスクのひとつである。我々でさえ、飯粒ひとつから重量級のものまで、幼少のみぎりから「掴む」鍛錬を繰り返し、漸く体得した極意を駆使しなければ、春巻を倒すことはできない。先が太い中華箸なら、難易度はさらに上がる。

 

果たして、奥さんは、何度も失敗し、遂には、箸を落としてしまった。

 

箸はフェンスを越えて飛んでいき、階下のウェイティングバーで呑んでいたおねえちゃんの頭上に、落ちた。降った。刺さった。おねえちゃんは、咄嗟に何が起きたのか理解不能な、驚愕の表情で、こちらを見上げた。しかし、奥さんが謝り、「箸降るレストランへようこそ!」とお決まりのジョークを繰り出すと、互いに爆笑した。これぞ社交性!

 

その他、「ディムサムは中国や日本の漢字では〈飲茶〉と書いて、〈茶を飲みながら色々食べる〉という意味である」「えげれすでは、謎の〈カツカレーブーム〉だけど、カツが無いカレーもカツカレーと呼ばれているらしい」などなどの話で盛り上がる。やはり食べ物ネタは鉄板である。

 

高いけど、美味いレストランだった(枝豆は¥800!)。階下の会計のところで、ご馳走になった御礼を言う。

 

「素晴らしいレストランでした。思っていたより広いし、美味しいし」
「そうね、ここはちょっと特別だわね」
「箸も降ってきますしね」
「(笑)」

 

モルトが呑めるバーに移動する。通常、パブには、シングルモルトの品揃えはほとんど無い。何処に連れて行ってくれるのかと思っていると、奥さんは、中華レストランの向かいの店に入っていった。確かにここにパブがあるのは知っていた。ホテルのバーらしい。しかし、ここなのか!師匠邸から徒歩1分、最適な環境じゃないか。

 

ウィリアムモリスの壁紙、ホンモノ暖炉、ズラリと並ぶシングルモルト。ハァハァしながら見ていくと、師匠曰く、

 

「ここはめちゃくちゃ古いんだよ」
「ほう(〈古さレベル〉のエゲツなさには慣れている)」
「音楽無し、ダーツ無し、フットボール中継無し」
「素晴らしい」
「ちなみに」
「はい」
「玲が明日泊まるのはここのホテル」
「え!ここなんですか!」

 

クラシックなバーにハァハァ(*´Д`)

 

僕はそこで、タリスカーグレンモーレンジを呑み、帰宅した。

 

あゝ、素晴らしき哉、ダーラム!