確かに、後半終了間際は、押し気味だった。怒涛のシュートの連続。試合の中で放たれたシュートのうち、大部分が、後半残り10分のところに集中していたのではないかとまで思わせる程、後半の後半は、主導権を握っていた。
でも、決まらない。
開始早々、敵に取られたペナルティーキック。あまりにあっけなく、先制点を取られてからほぼ1時間余り、試合は、完全に膠着状態。どちらも決め手に欠け、つまりは、ほぼ互角の勝負を続けていただけに、開始早々失った1点は、次第に重く感じられて来ていた。
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今日は、フットボール欧州三大カップの一つ、「European Cup」の決勝があった。えげれすの最強チーム、マンチェスターUtd.と、独逸の強豪チーム、Bayern Munichの試合は、第三国スペインはバルセロナにある「Nou Camp Stadium」で開催された。
ここまで、Man Utd.は、えげれすの国内リーグである「プレミアリーグ」を極め、えげれすの天皇杯とも言うべき「FAカップ」の頂点に立ち、更に、ここで、欧州チャンピオンになれるかどうかという、まさに、黄金時代を築くかどうかという転機に来ているのである。
前回書いたように、FAカップの決勝では、僕の応援していた、阪神似のユニフォームNew Castle Utd.に完勝した。
プレミアリーグでは、シーズン当初は相当余裕の位置だったんだけど、リーグ後半、下位に追いつかれて、結局、去年の覇者「アーセナル」と僅か1ポイント差という、ギリギリの優勝であった。
で、European Cup。準決勝は、結構苦戦して、流石に欧州は懐が広いわいと、感心して見ていたんだけど、今回の独逸軍も、タダモノではなかった。えげれすと独逸軍の闘いはやはり伝統的に、一筋縄ではいかない。
うちの英語の先生で、マンチェスター生まれで、生粋のManchester Utd.のファンっていう人がいる(日本で言ったら、神田辺りで生まれた巨人ファン)。彼に、今日の試合はどう思うか聞いたところ、普段は、恐ろしく陽気な彼が、「地球が終わる」くらいに深刻な顔をして、
「あそこは、めちゃめちゃ強い。個人の身体能力は勿論、組織力、守り、どれをとっても、めちゃめちゃ強い…」
と呟く。実際、独逸軍は、鉄壁の守りで、隙を与えなかった。やはりゲルマンは固いのか。
マンチェスターとか、リバプールとか、そういうイングランド中北部の町は、最初にえげれすで生まれた12(だったかな?)のクラブチームが、その辺のものばかり(結構な割合だったと思う)だったこと等からも分かるように、フットボール人気は相当なものである。倫敦にあるクラブチームも、4つだか5つだかあって、その中の、チェルシー(貴方にも上げたい)とか、前出のアーセナル(ここのファンは相当狂暴らしい)とかは、とっても強いんだけど、どうも、プレミアにおいては、倫敦のクラブは、若干、「下」に見られているっぽい。
今年のマンチェスターUtd.は、勢いが一味違う。だから、当然の如く、マンチェスターの街も、相当盛りあがる。あそこは、労働者の町なので、盛りあがり方も、なかなかコワイものがある。
で、このチームは、倫敦ではないんだけど、いわば「巨人」みたいなものでもあるので、当然倫敦でも、盛り上がる。感じとしては、東京で盛りあがるホークスファンってとこか?(ちょい、違うかな)。
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ほとんど、負けは決まったようなものだった。既に、時間は、85分を過ぎている。
ベッカム(イングランドの若き指令塔。Spice Girlsの一人と結婚した。カッコいい)が焦りを見せる。
いつもいつも怒鳴っているシュマイケル(デンマーク人ながら、チームの為に燃える彼は、今期限りでチームを去る)が、さらに怒鳴りながら、檄を飛ばす。
シュートは打つんだけど、、、、決まらない。僅か一点差なんだけどねぇ。
このチームのツートップは、アンディ=コールとドワイト=ヨークである。監督の、アレックス=ファーガソンは、途中で、コールに代えて、シェリンガムという選手を入れた。僕は、この選手は、初めて見る。
後半85分過ぎ、怒涛の攻めを見せて、めまぐるしいシュートを打つ中で、その組み立てには必ずシェリンガムが絡んでいた。
89分25秒、何度目か既に分からないコーナーキックを得る。例によって、ベッカムが、左から蹴った。ゴール前でもつれたボールが、ライアン=ギッグスからシェリンガムへ渡る。そして、彼がピンポイントで合わせた。「そこしかない」という軌道を描いてネットが揺れた。
これは、奇跡としか言い様がないわ。89分25秒よ?欧州チャンピオンを決める決勝で。こんな劇的なことがあっていいのかっていうくらい、物凄い瞬間。
日本のアナウンサーなら、
「ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーール!」
と、喧しく叫ぶだろうところを、
フルタチなら、
「躍動する筋肉のフラメンコ!!」
等と、またわけわからん修辞句をつけそうなところを、
我が愛すべきえげれすのアナウンサーは、暫しの沈黙を置いた後で、厳かに、
「…Fantastic」
と唱えた。
その瞬間、客席では、発煙筒が炊かれ、異様なムードに包まれた。だって、誰もが、負けを認めていたし。何度も言うけど、89分25秒!
言葉を失い、倒れこむ独逸軍選手もいた中で、漸く、試合が再開された。こうなると、勢いってのは止められないんだね。もはや、結末は、誰の目にも明らかだったと言える。
延長2分23秒。またしても、ベッカムがコーナーを蹴る。同じく、左サイドから。なかなかいい感じの弧を描いた球が落ちたところには、またしても、背番号20のシェリンガムがいた。
僅か3分の出来事。一年間のさまざまな苦楽は、この3分に集約された。マンチェスターは、2点を入れて、王者になったのだ。
いつもアツい、キーパーのシュマイケルが思わず側転のパフォーマンス。かたや、、、地面を叩いて、泣きはらしてる独逸軍。日本ならば、「バルセロナの悲劇」と銘打つであろうこの劇的な試合は、かくして、幕を閉じたのであった。
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先程は感情を抑えたアナウンサーだったが、えげれす人といえども、この状況には、感情がほとばしらざるをえないと見えて、名文句を絶叫した。
Champion of England,
Champion of FA Cup,
Champion of Europe is Manchester Utd.!!
確かに、この三冠ってのは凄いよな。巨人嫌いの僕も、思わず興奮してしまった試合でございました。
ではでは。