えげれす通信、再び

20年ぶりに復活しました

【旧】えげれす通信_vol36:なんでやねん (13/03/2000)

とりあえずこんな表題をつけたけど、小中学あたりの、国語の問題にある、

 
「次の文章を読んで、筆者の意図を一番良く表してる表題を選べ」
1.「なんでやねん」
2.「どないやねん」
3.「ちょ、待ってくれや」

 
という出題があったら、どれを選んでいいか、非常に迷うところである。

 
・・・いやはや、ひどい目にあった。

 
週末、久しぶりに車を借りて、スコットランドに行ってきた。レンタカーを借りるのは、めっちゃ久しぶりである。今回は、今まで頼んだことのない、「Six-t」レンタカーを利用した。ここは、webで予約ができるので、とっても便利なのである。

 
ピックアップは、ロンドン南部のVauxhall(地名)である。一人なので、車種は一番小型の奴にした。こちらのレンタカー会社は、車種の細かく設定した予約ができない。だから「なんとかクラス」となる。現場に行ってみないと何になるのかわからないが、僕もこれと言って拘りがあるわけでもないので、与えられた車を素直に受け取っている。

 
さて、当日は12:00にピックアップの予約である。いったいにえげれすの会社は、時間に無頓着である。日本のように、一時間、下手すると30分刻みで、料金設定があるようなことは考えられない。そこで、多少得をしようと、11:30少し前にオフィスへ行くと、果たして、さくっと車が出てきた。ブルーのルノー車。めっちゃ光ってるやん♬ 手続きをして、いざ出発しようと乗り込んで驚いた。なんと、オートマである。僕は、とってもオートマが嫌いで、ミッションが好きなので、車を変えてもらおうと交渉した。すると、別に文句も言われずに、15分くらいで、次の車がでてきた。今度は、シルバーの「VAUXHALL Vectra 1.6Di」車である。ちなみに何故かこの国では、OPELのことをVAUXHALLと呼ぶ。今度の車もとても綺麗であり、しかも5000マイルほどしか走っていない。乗り心地も悪くない。僕は嬉しくなった。「VauxhallでVAUXHALL車」というゴロにもテンションが上がり、僕はいい気分で出発した。

 
・・・後にして思えば、この「わずかな躓き」は、これからのトラブルを暗示していたのかもしれぬ。

 
行き先は例によって全く決めていなかった。但し、スコットランドには暫く行っていなかったので、とりあえず未踏の地が多い北に向かおうと思った。倫敦から北へ向かうためには、西ルート(バーミンガムマンチェスター→カーライル)のM40+M6と、東ルート(シェフィールド→ヨーク→ニューカッスル)のM1がある。僕は西ルートを選んだ。

 
えげれすは高速がタダなので、さくさく進む。あっという間にマンチェスターを過ぎ、20:00頃にカーライルに到着した。いつも車に乗るときには、郊外型のでかいスーパーに寄って、くいもんとのみもんを買い、車で食べるというパターンが一般的である。カーライルでその目的を果たした。

 
既に外は暗い。僕はこれから先のルートと仮眠地を決めるために地図を見ることにした。ところが、室内灯がつかない。・・・いや、つかないんじゃない。「つけ方」がわからない。

 

外車では、こういうことはよくある。そもそも最近の車は、何だかやたらスイッチ類があるし、凝ったスイッチになっていたりして、操作がわからない場合が沢山ある。例えば、突然有料道路に入ってしまい、突然料金所が現れ、突然窓を開ける必要が生じたにもかかわらず、窓の開閉の仕方が分からない、みたいなことである。

 
さて、室内灯である。昔借りたルノーでは、散々あちらこちらをこねくりまわした挙句、室内灯そのものをカチッとスイッチのように押すと、点いたということがあった。どこだかさっぱりわからず、しかしそんな単純で基本的な操作をヤヤコシクしているルノーに腹が立ち、腹立ちまぎれに室内灯部分をバコンと叩いたら、偶然に点いたのであった。さすがにおフランス人、思考の回線が常人とは違う。

 
今回も、あちこち、撫でたり叩いたりずらしたり押したり引いたり、周りのスイッチをかたっぱしから試したりしたが、まったく点かない。挙句は、説明書まで見たけど、埒があかん。というか、説明書に、ちゃんと絵付きで説明があったので、ダッシュボードの薄明かりを頼りに読んでみると、「車内灯の脇にあるスイッチを押せ」とある。さすがにゲルマン、おフランスのアーティスティックな発想とは異なり、質実剛健なところは好感が持てるものの、見ると、そんなスイッチは脇にはない。イライラしながらもう一度説明書を読むと、その記述のところになにやら星マークがついている。いやな予感がして、頭ページの凡例を見ると、果たして、「星マークの項目は、車種によって、多少違いがあります」となっている。しかるに「違い」の説明はない。

 
嗚呼、ゲルマン。詰めが甘いよ。

 
明かりが点かないと、今晩一晩、というかこれから数晩、暗い中で過ごさねばならなくなる。しかし、まあ、そのうち何とかなるやろ。この件はいったん置いておくことにして、序にガソリンを入れることにした。

 
いつもの通り、緑のハンドルで無鉛ガソリンを入れる。大体30Lくらい入った。キャップを閉じ、カバーをはめようとした。しかし、ふと見たそのカバーの後ろにある文字を見て、僕は固まった。

 
DIESEL
-うそやん。まさか、そんな。

 
かなり焦って、件の説明書を読む。

 
「燃料は、無鉛ガソリンを入れてください」
-うむ。そうだよな。借りる時、何の注意もなかったしな。説明書に星マークも書いていないしな。

 
一寸安心したところで、念のため、契約書の、車の詳細を見る。

 
「VAUXHALL Vectra 1.6 Di」
-ん?この「Di」が気になるな。ま、まさか。。。

 
でも、兎に角、エンジンを恐る恐るかけてみる。

 
ブルルン
-かかるやん。まあな、借りる時、何の注意もなかったしな。ふつう、ディーゼル車だったら、貸すとき一言注意があるよな。

 
エンジンは問題なくかかったので、とりあえず、走ってみることにした。車は快調に動く。特に異常も見当たらない。

 

-きっと、何かの間違いだろう。大体、レンタカーでディーゼル車を貸すなんて聞いたことない。
-環境問題に煩いEUで、今時、ディーゼルエンジンなんて、きっと認めていないに違いない。
-部品工場に残っていた、昔のカバーにDIESELって書いてあっただけだろう。

 
自分に都合のいい解釈をしつつ、一寸だけ安心して走っていると、またガソリンスタンドが現れた。そして何気なく料金ボードを見ると、

 
「無鉛 78.9」
「有鉛 80.9」
DIESEL 78.9」
-! めちゃめちゃ売ってるやん。。。

 
この国では、さらに、環境にとっても優しくない、有鉛ガソリンまで売っているのである。尤もこいつは、近い将来、完全廃止される予定らしいけど。

 
-スタンドのおばちゃんはこっちの車を見て、にこやかにThank Youと言ったぞ。
-車を見て、間違っているかどうかくらい、わかるだろう。
-とにかくも、動いているのは事実。

 
僕は、次なるジコチュー解釈を重ねた。・・・実際、それから80kmくらいは走ったのだ。

 
高速を外れ、かなりの山道に差し掛かった。既に80kmくらい走っているという実績から、僕は既にナメてかかっていた。「ややこしいな、VAUXHALL!」僕は、僕を惑わすVAUXHALLに勝利宣言をしつつ、快調に山道を飛ばした。すると後ろから大型が来て、結構接近してくる。僕は、この先のルートを考えるためもあって、ちいちゃな村の、一寸した路肩に停車した。

 
プスン
-お。エンストか。オレとしたことが。

 
僕は、余裕をかましつつ、相変わらず点かない室内灯を弄繰り回しながら、またもやダッシュボードの僅かな明かりを頼りに、ルートを決めた。よし、出発だ。

 
ブルルルルン
ブルルルルルン
ブルルルルルルン

 
-かからぬ。

 
僕は、ちいちゃな村の路肩で、遭難してしまった。

 
思えば、色々な意味でラッキーだった。既に時間は22:30である。こんな時間に、こんなちいちゃな村である。電話のないところだったら、完全に遭難したであろうところ、なんと目の前に電話ボックスがある。高速の上での「ブスン」だったら、安全に路肩に寄せられていたかどうか。人里離れた山ん中での「ブスン」だったら、本当の意味での遭難になるところだった。エンジンがつかないってことは、バッテリーの残りが全てだということである。暖房は切れるし、ラジオも聞けない。明かりも、室内灯のみ・・・いや、これは、スイッチがわからないんだった。昼間は暖かかったけど、夜はめっちゃ寒い。冗談じゃないわけだ。それを考えると、一応は「ちいちゃな村」であり、しかも電話ボックスがあるロケーションである。

 
幸運にも、村の、電話ボックスの前に止まった我がVectraは、しかしながら矢張り、ディーゼル車だったらしい。いや、そんな車貸すなよ、Six-T。レンタカーでディーゼル車を貸し出すかね。しかも何の注意もせずに。恨みつらみがつのるものの、文句を言っても始まらない。僕は、VAUXHALLの緊急フリーダイヤルに電話した。状況を説明した後、

 
「では、目印になる建物とかありますか?」
「えーと、多分一軒だけだと思うんですが、パブがあります」
「それでは、AA(日本のJAFみたいなもん)が行くと思いますので」
「どのくらいかかりますか?」
「一時間以内には着くでしょう」
「寒いんで、車の中で待っててもいいですかね?」
「勿論!なんなら、パブの中ででも、はははは」
「そりゃいい考えですな、はははは」
-笑うところではない。

 
さて、待つこと40分、AAの車が来た。AAのおっちゃんは、鑑定団の、「いー仕事してますねぇ」の人に似ている。

 
「どうもどうも」
ディーゼルエンジンにガソリン入れたんだって?」
「そうなんですよ。知らんかったので」
「レンタカーですよね?」
「そうですよ。もう最低ですよ。でも80kmくらい走ったんですよ。何で?」
「ガソリンが上に浮いて、下にある軽油がうまいこと燃えたんだな。にぃちゃん、運がよかったで、はっはっは」
「そうなんや、はっはっは」
-だから・・・笑うところじゃないんだけど。

 
「どうしようかな。引っ張っていこうかな。ちょっと待ってね」
(電話で誰かと相談中)
「うん、引っ張っていくのはやめるわ。もう少ししたら、トラックが来るから、そいつに運んでもらって」
「ん?僕は待ってりゃいいんですか?」
「そう。待っといて。じゃ、さよなら」

 
鑑定団は、さっぱりいい仕事をせずに帰ってしまった。おっちゃん、何しに来た??僕は、もうすっかりあきらめの境地である。何だか、結構なカネもかかるらしいし、こうなったら、ケセラセラである。

 
さて、救出隊二号は、どでかいローリー車でやってきた、ざんぎりアタマのおっちゃんであった。・・・あのローリー車を見るとどうしても思い出す、あの光景。そう。数年前に、愛車プリメーラが、トラクタークラッシュに遭い、新潟の田圃道に沈んだ時のことである。ボンネットがぐしゃぐしゃになった我がプリメーラは、ローリー車に乗せられて、ドナドナの如く運ばれていったのだった。えげれす独自の標識の一つに、「Farm Trafic Caution」というものがある。これは、一般的な「注意」を表す、逆三角赤囲みシリーズの一つで、そのまんま、トラクターの絵が書いてある。それを見るたびに、僕は、あの新潟の田圃道の光景を思い出す。そして今も、うつろいゆく時の流れに身をゆだねながら、目の前の作業を見守る。

 
このザンギリは、さっきの「いい仕事しないおっちゃん」に比べると、愛想があまりなく、笑わず、ちと怖い。クソ寒いなか、車台に車をのっける作業を、笑わずに、黙々とやっている。ザンギリ頭の髪の毛は、風に揺られて、何だかとってもカッパ頭に変わっていく。

 
さて、そこから、エジンバラまでは30kmくらいの道のりである。着くのはおそらく、1:30を過ぎそうである。本来、この時間では、B&Bは無理だし、ちゃんとしたホテルを探すしかない。また、この村からそもそもどうやって移動したらよいのか。タクシーか??色々考えて、僕はこの時、かなりの出費を覚悟していた。ところが、このザンギリカッパ氏、口数少なく表情険しいくせに、親切は親切で、エジンバラで僕が泊まるホテルを予約してくれたり、ホテルまで送り届けてくれたりした。うう、なんて優しいカッパなんだ。

 
「めっちゃ、ありがとう。ほんま、ありがとう」
「ええって。ほんならな」

 
そう言って、ざんぎりヘアを風になびかせつつ、カッパ氏は家に帰っていった。僕は、ホテルにチェックインし、レンタカー会社にFAXを出し、明日の手続きをし、自棄酒を飲んで眠った。

 
翌日、10:30頃、Six-Tのエジンバラ支社から、代車が到着した。持って来てくれたのは、めちゃめちゃスコティッシュ訛りのにぃちゃん。

 
「○×△○×△○×△faxにコーヒーこぼしてもぉた○×△○×△はっはっはっは」
「はぁ」
「○×△○×△サインして○×△○×△○×△」
「ここですか。はい」
「○×△○×△○×△○×△○×△はははは」
「はぁ」

 
何言ってるかさっぱりわからん。ただ、感じがめちゃめちゃいいぞ。何だか、これから運が向いてきそうな気がするぞ。

 
「○×△○×△○×△」

 
相変わらず、何言ってるか、まったくわからないので、「わからんときは、YESと言っておけ、の法則」に従い、うん、うん、と言っておく。

 
さて、今度のグリーンのルノー車は、前に劣らずめちゃめちゃ新品である。乗り心地もよい。天気も快晴。無駄になるかと思った午前中も、意外に節約できた。僕は、心機一転、一路、北へ向かった。目的地は、モルトウィスキーの蒸留所がうんざりするほどある、パース、アバディーン、ダフタウン、ピトロッホリー、という地域である。

 
アバディーンを過ぎて、めちゃめちゃ景色がよくなってきたので、そろそろ写真を撮ろうとカメラを出した。ここまでは、交通量が多かったので、車を止めるのが難儀だったし、景色も、北に行けば行くほど、スコットランドらしい、荒涼としたものになるのはわかっているので、それまで我慢していたのである。見れば、潅木と川と山と羊がうじゃうじゃいる。これぞ典型的な、スコットランド、ハイランド地方の、正しい風景ではないか。然も、こればっかりは、何度見ても、その都度とっても感激するほど、美しい風景なのである。よし、撮ろう。カメラの電源を入れると、

 
ウィーン
シュポ

 
レンズが開いて、そして引っ込む。

 
-冗談はやめようよ、富士フィルムさんよ。

 
ON。
ウィーン
シュポ
-まだ、殆ど撮っていないし、まさか電源切れるわけないよな。
-間違って電源つけっぱなしにしていても、自動で電源オフになる賢いシステムがあるでしょう。

 
ON。
ウィーン
シュポ
-!

 
見ると、ダイヤルが、若干ずれている。ということは、自動電源オフ機能が働いていなかったということである。

 
バッテリーは充電式で、かつ、変圧器を持ってきていないため、出先での復活はもはや不可能なのである。以後、僕が通ったルートは、絶景の連続であり、天気は、雲ひとつない快晴であった。山にも海にも川にも丘にも岩の上にも木陰にも湖にも水溜りにも原っぱにも、四方八方東西南北、奴らはうじゃうじゃいて、草を喰っている。ため息が出るほど綺麗な風景で羊が草を喰っているのに、僕は一枚も、奴らの写真を撮ることが出来ないのであった。

 
もう、既に、血だらけのスコットランド行である。これほどまでにアクシデント続きだと、なんだかフワッフワした気持ちになってくる。妙なテンションになるし、同時に、脱力やけくそにもなってくる。だから、今回、腐るほど現れる蒸留所にも、最初から期待はしないでいた。そもそもイースター間の、しかも土日であるので、大抵の蒸留所は閉まっているだろう。期待したところで、今回はそもそも連敗続きだし、すべてはフラれるだろうと思っていた。ダフタウンというところのB&Bに泊まった翌日に、日本でも有名なグレンリベットの蒸留所に行ってみたけど、案の定閉まっているのであった。ここの場所は、また恐ろしく美しい。朝早かったので、空気が澄んでいて、蒸留所は朝日に輝いている。遠くハイランドの山並みを背景に、奴らは相変わらずうじゃうじゃいて草を喰っている。なのに僕は、見学も出来ないし、売店も覗けないし、奴らの写真も撮れない。

 
今回の唯一の勝ち星は、駄目もとで行ってみたもう一つの蒸留所、Glenturretというところであった。日曜なのに開いていて、ガイドツアーにも参加でき、テイスティングも体験でき、売店でグッズを買うことも出来た。これは良かった。

 
そんなこんなで、倫敦に帰ってきた。帰りは、東ルートのM1を選択した。このM6とM1っていうのは、北に向かう時には使わざるを得ないルートなので、かつて何度も通っている。だから、さっぱり面白くないのであるが、それでも、よくよく考えてみると、距離的にはかなりのものがある。ロンドン-エジンバラは600kmくらいある。これは、東京-神戸くらいに匹敵する。今回の総走行距離は、大体2000km弱であった。大阪-仙台が900km、東京-福岡で1100kmくらいなので、まあ、なかなかの距離を走ったことになる。しかし、日本と違って、高速代がタダなので、あっけなく走れてしまう。今日の、帰りのM1も、至って快調だった。

 
然し、連敗続きの運気は、なかなかに途切れるものではないらしい。

 
シェフィールド付近で、工事があった。車線が減少し、制限速度が時速50マイル(約80km/h)になっていた。普通、こういう工事規制のときには、オービス(速度監視カメラ)の設定をいちいち変えることはしないものである。しかし、

 
ピカ
-気のせいかな。光ったな。

 
僕は、みたび、ジコチュー解釈を重ねたのは言うまでもない。

 
-えげれすのカメラは、フィルム入れ替えが手動だから、光っても大丈夫らしいっていうよな。
-実際の検挙率は20%以下だって、この前新聞に書いてあった。
-仮に捕まっても、罰金£40(約6800円)だろ。たかだか£40だろ!
-えげれすの公務員が、「レンタカー会社に提出した国際免許証項目の日本の住所」を割り出す?
-そんなこと、できるわけがない
-できたとしても、日本に請求書を送る、なんてこと、する奴がいるはずがない

 
ぶつぶつ考えていて、はたと閃くものがあった。

 
「げ。six-tでえげれすの現住所を書いてしまった」