えげれす通信、再び

20年ぶりに復活しました

【新】えげれす通信2024_vol.05:スコットランド最北果て旅編 (15/02/2024)

ラブリーおばちゃんとは異なり、「笑顔レベルがやや下がる」、ホスピタリティが無いわけではないが、「些かシャイで些か不器用な感じ」のおじちゃんが、朝食部屋で出迎えてくれる。

 

オレンジジュース、牛乳、各種シリアル、各種ジャム、などが、自由に取れるように、美しく配置されている。食卓には、まさにえげれす!、というスタイルで、食器が並ぶ。

 

正しいB&B

 

やや笑顔がぎこちないおじちゃんは、「紅茶?コーヒー?」を聞いてくれた後、キッチンに戻り、数分後、正しく「トーストラック」に入ったトースト、正しく「えげれす標準のティーポット」に入った紅茶とお湯、そして、正しく盛り付けられたフルスコティッシュブレックファーストの皿を運んでくれた。きゃー。痺れるぜ。でも、

 

…ハギスがない

 

今朝は一度も、ラブリーおばちゃんの姿を見ていない。ハギスのくだりは、昨日、おばちゃんと盛り上がった訳だけど、ぎこちなきおじちゃんには伝わらなかったのか?

 

もそもそとして、覇気のカケラも感じられないソーセージ、表面に滲み出た脂だけでご飯一膳いけるんじゃないかという、塩辛いベーコン、そして、トマトソースの癖にトマトの味もしないし豆本来の甘さなんてこれっぽっちも感じないし、ムニャムニャとした歯応えしかしない、「絶対王者」ベイクドビーンズ、などを、一年ぶりに、頂く。しみじみ、頂く。苦笑を溢しながら、頂く。

 

正しいスコティッシュブレックファースト

 

チェックアウトの時も、不器用おじちゃんのみの見送りである。嗚呼、ラブリーおばちゃん、まさか、風邪をぶり返したのか?!

 

ルートを決めて、出発する。そろそろガスを入れなきゃな、と思いつつ、インバネス市内の、朝の通勤時間帯で交通量の多い道を抜けるのに、まずまず緊張する。モレー湾(Moray Firth)にかかるケソック橋(Kessock Bridge)を渡ると、ようやく、A9の快調な流れに乗れた。

 

本日は雨、我がロードマップに「絶景」と記されたポイントも、雨模様では迫力に欠ける。やはり天気は大事だね。そんなことを考えながら走っていると、大事なことに気がついた。

 

インバネスの、交通量の多いラウンドアバウト通過に気を取られてガスを入れ忘れ、気づけば超田舎ゾーンに突入してしまったではないか。スコットランド北西部の超田舎ゾーンは、

 

店もねぇ
ガスもねぇ
奴ら以外にゃなんにもねぇ

 

という、吉幾三ワールドである。マジで、本気で、何もない。だから、食糧も、飲み物も、ガスも、十分に補給しておかないとエラいことになる。実際、僕はかつて、スコットランドの田舎ゾーンでガス欠になり、えげれすのJAF的な人にガスを持ってきて貰ったことがある。これ、真剣にマズい奴だ。

 

しかし、グーグル先生はさすがの働きをする。野良WiFiは、超田舎ゾーンで拾えるわけもないので、docomoの海外データサービス24時間¥980を申し込み、グーグル検索をすると、少し先のレアグ(Lairg)に「現在営業中」のペトロールステーションがある!うーむ、ネットとかスマホとかの威力、認めるのは癪に障るけど、認めざるを得ないな。

 

晴れていたら超絶景、雨模様だとそこそこ絶景、の中を、快調に走る。

 

ベースは絶景①

 

ベースは絶景②

ベースは絶景③

 

ベースは絶景④

 
山間部を通り抜け、海岸部に出た。

 

晴れていたら絶景

 

雪だか、石だか、わかりゃしない

 

こっち見んなw

 

本日の最大の懸念事項は「宿探し」である。えげれすでは、そこら中にビービーがあるので、本来、宿探しに難儀することはない。しかし、ここは超田舎ゾーンであり、「人跡未踏レベル」の地域である。車で走っていると、次から次から、ビービーが現れる、という訳にはいかない地域である。加えて、二月、超オフシーズンである。そして、明日のアバディーンまでの帰路を考えると、何処でも良い、という訳にもいかない。諸条件が鬼である。大丈夫なのか?しかし、まあ、ナントカナルでしょう!

 

最初の候補地はダーネス(Durness)という集落であった。かなり良さげな、パブ系ビービーを見つけるも、完全に無人でアウト。ビービーというよりはホテルに近い、大箱宿を見つけるも、高そうだし、一旦スルーする。高台にある絶景ビービーも「空室なし」。結局、見つからない。

 

明日の帰りを考え、しかも、そこそこのデカさをもつと思われる集落はタン(Tongue)である。なんならここで、晩飯を買えるスーパーくらいあるかもしれぬ。期待に期待を重ねて到達するも、そこは、ささやかな希望の灯をぶち壊すほどにナニモナイ、チイチャイ、集落だった。目的が違えば、「なんて愛らしく、素朴で、素敵な集落なんでしょう!」となる筈が、宿なしデラシネ状態の僕にとっては、絶望の淵に突き落としてくれる集落だった。

 

釈然としないながらも、渋々ながらも、「負けた感」に苛まれながらも、再びグーグル先生に頼る。「デラシネ緊張感」に満ち満ちていた僕のここまでの数時間を嘲笑うかのごとく、僅か数秒で、先生は「正解」を示してくる。予約サイトを見れば、現在地から一番近く、今夜空きがある宿は僅かに3軒(当然、サイトに登録していない、個人経営の、チッチャイ、しかしながらおそらくラブリーな、ビービーなどは、もう少しあるだろうけれども)、そのうちのひとつを予約する。この間、僅か数分。いやあ、現地にいるのに、えげれす宿探しをネットでするとは…釈然としないなあ。

 

ただし、宿が決まれば、焦りはなくなり余裕がでる。少し遠回りだけど、スコットランド最北の町サーソー(Thurso)に、久しぶりに行っておくか。

 

ウィック(Wick)とサーソー(Thurso)はえげれすの鉄道の「最北終点」の2つである。インバネスからの鉄道は、それらの手前のジョージマスジャンクション駅(Georgemas Junction)で二方向に分かれ、それぞれが盲腸線になって、「行き止まり」になる。サーソーは、インバネスから247.6 kmの距離にある。2000 年までは、インバネスからの列車はジョージマスジャンクションで半分に分割され、ひとつはウィック行き、もう 1 つはサーソー行き、 となっていた(現在では分割運用は廃止され、インバネス⇔サーソー⇔ウィックと、ジョージマスジャンクションで2回停車する運用)。ロンドンのキンクロから、北へ、北へ、そして北へと、果てしなく上がっていくと、その鉄路が果てるのが、この二駅なのである。「果て研」部長のワタクシとしては、コーフンが半端ない。

 

えげれす最北駅

 

鉄路はここで果てる

鬼田舎ゾーンから行くと、サーソーは流石のデカさの街であり、スーパーもある。晩飯を仕入れて、宿に向かう。

 

ロードマップで確認すると、今宵の宿は、吉幾三ワールドのスコットランド北西部の中でも、さらにエゲツないレベルで、

 

ナニモナイ

 

エリアにあるらしい。しかも、一軒のみ、ポツンとあるらしい。

 

駅もポツン

 

なーんにーもない、なーんにーもない、まったくなーんにーもなーい♪

 

ちのはじめ(かまやつひろし)の世界でもある。外は真っ暗なので、その「かまやつゾーン」のナニモナサを視認することができないが、だからこそ、不安も抱かずに済んでいるのだとも言える。

 

ナニモナイ、ということは、我が愛用ロードマップにも「目印」がないし、道沿いにも「目印」がないということである。あたりは人工物が皆無で、当然、光源は絶無である。

 

…どうやって見つけるんだ?!

 

うーむ、三たび、ヤツに訊くしかないのか。頼るしかないのか。オレが長年培ってきた「マニュアル経験値的判断」を捨てて、ITの軍門に下らねばならぬのか。

 

先生は神業的な速さで僕の現在地を特定し、宿の位置も示してきた。あの台詞が頭をよぎる。

 

…認めたくないものだな。(以下略)

 

宿があるフォーシナード(Forsinard)は、なんと、鉄道の駅まであるものの、宿が二軒にティールームが一軒しかない、「ムッシュ吉幾三ワールド」の権化みたいなところだった。そして、宿の説明には、なかなかの衝撃的内容が示されていた。

 

・この宿にはレストランなど、ひとつたりともありません
・この村に、食糧を買える店があるとか思うなよ
・一番近いスーパーはサーソーです(46km先)

 

まだ続きがあった。

 

・この宿にはスタッフなどひとりもいません。何があっても、自力で、なんとかしてください

 

そして最後に、

 

・この宿の水道は自然水を使用しています
・この周辺は見渡す限りの泥炭湿地帯です
・水道水には泥炭が混じるので茶色です
・炭のカケラも出てきます

 

衝撃notice

 

自然大好きな人には堪らんだろうけど、都会っ子にはタマランだろうな。ワタクシは人類学者なのでヘデモナイですが(笑)。

 

最後はえげれすらしい締めくくり。

 

・こんだけ茶色でも、入浴、トイレには問題ないです
・それだけでなく、洗顔、洗髪などにも、【完璧に】、大丈夫です
・ただし、飲むのはやめた方良いよ
・だからボトル水を置いておきますね♪

 

実にえげれすらしく、「perfectly safe」という、毅然とした表現で、グイグイと押し切ってくる。

 

しかし僕は、「ムッシュ吉幾三ワールド」では、「食糧を前もって調達し、余らせるくらいの余裕を常にもっておくこと」が「生き永らえる智慧」であると知っているので、寸分の死角もない。

 

衝撃の泥炭風呂

 

久々バスタブでは、お湯蛇口と水蛇口が分かれた「えげれす風呂トラップ」も余裕でクリアし、茶色のお湯を張っていった。バスタブに浸かるは久しぶりだ…。

 

いや、違う

 

思い出す感覚があった。危機察知の感覚。「何かある」感覚。

 

…途中で確認すると、果たして、「お湯蛇口」の熱湯は、バスタブ半分くらいの段階で、既に「ぬるま湯」になっていた。

 

さもありなん
最後まで「熱湯」だと思うなよ

 

こういうことは、先生は、教えてくれない。やはり、「マニュアル経験値的判断」の勝利だな、うむ。