アバディーンバスターミナル6:40発のバスでアバディーン空港に向かい、そこでレンタカーを72時間借りる。事務所は7:30に営業開始、僕の予約は8:00、しかし、7:40くらいに行ってみたが、スタッフは誰もいない。
マタコレカ
案の定、いつもの張り紙がある。案の定、「人がいなかったら下記に電話してね。すぐにお迎えに行くからね」と書いてある。
8:00に予約しているんだから、ちゃんといなさいよ。そうも思ったが、これまた前夜と同じパターン、「えげれすに居ながら、日本の携帯で、えげれすに国際電話をかける」をすれば良い。粛々と、こなせば良い。何か問題でも?いいや、全く、何の問題も、ない。経験値を上げているワタクシに死角は無い。
電話をかける。ふいに、カウンターの奥から、メロディらしき、呼び出し音らしきものが聞こえてくる。
死角があった
携帯、裏に置きっぱなしやん
完全に対処不能になってしまった。とにかく待つしかないか、と思っていたら、7:58に、おっちゃん登場。スンマセンの詫びも無いが、やたらと感じ良い。感じ良いので、何も無かったことにする。
無事に乗り出す。車はFiat。おお!初めてだ。
今回のドライブルートは、きちんと計画してはいないが、2007年の、ドクターを貰ったあの時に、おふくろを連れて周ったルートを、なんとなく考えていた。
あの時は、アバディーン(発)→グレンリベット→グレンフィディック→Elgin→インバネス(泊)、→Ullapool→Rhiconich(泊)、→あとは南下してアバディーン(着)、という感じだった。ポイントは「蒸留所巡り」と「スコットランド北西部巡り」であった。今回も、この感じにしよう。最終日が若干の強行軍だが、実績はある。細かいルートは考えず、方向で適宜、進むことにした。
山間部に入ると、うっすら雪が積もっている。スコットランドはさほど降雪量はないので、まずまず珍しい風景だ。青空だし、絶景の予感がする。
最初の蒸留所「グレンリベット」を訪れるのは、かれこれ2〜3回目かな。だいたい、近接する次の「グレンフィディック」とセットで訪れる。ちなみにこの二つは、「地名」である。「地名」であるから、「小学校」も存在する。
グレンリベットのビジターセンターを冷やかす。そうだ、ここは「酒特化型」で、酒以外のグッズはほとんど置いていないんだった。それで、グッズが広く展開されている、次のグレンフィディックに行くんだった!記憶が蘇る。
今回は参加しないが、念のため、ガイドツアー詳細を聞いて驚いた。一人£25、¥5000だと?!昔はタダじゃなかった?なんぼインフレでも、なんぼウイスキーブームでも、それはちとやりすぎじゃないの?!
次のグレンフィディックでも、やはりツアーは同じ料金である。カルテルやってんのか?しかし、一回¥5000取られるんじゃ、「巡り」なんてできないわな。セチガライ世の中になったもんだ。
スコットランドも北部になると「山」の標高もそこそこ高くなる(それでも700-800m)。低木しか生えていない、独特の風貌の「山」が折り重なる。今回、僕は、住んでいた当事に使っていた「えげれすロードマップ」を持参している。1997年度版だが、この国はそうそう変わるものではないので、大丈夫でしょう。そしてこのマップには、その時その時の、「印象手書きコメント」が書かれている。今から進む道には、
「絶景」
と書きこまれてある。
「絶景ゾーン」に突入すると、そこには言葉通り、まんま、「絶景」が広がっていた(笑)。しかも今回は、「雪化粧絶景」というレアキャラ登場である。息をのむほどの美しさである。
絶景で絶叫
今宵の宿はやはりインバネスかな。うっすら記憶を辿り、B&B密集エリアに到達、確かにずらっと並んでいる。
以前に書いたかもしれないが、昨今のえげれす宿関連の謎のひとつは、「B&B」表記が激減し、以前は絶対にB&Bだっただろ、という家でも、現在は「Hotel」表記になっているケースが非常に多いこと。これに対する僕の推測は二つあって、①「Bed & Breakfast」の「朝食」を出さない、出せない、価格に含められない、という「インフレ系理由」、②BB協会的なもの、あるいは、なんらかの法改正、という「制度系理由」、ではなかろうか。正解はわからないが、どうも、①のような気がする。
えげれすと言えば、ホテルではなく、ビービーなんだな。それが醍醐味なんだな。都市部では一泊朝食付でだいたい¥6000、田舎だとだいたい¥4000、インバネスは相場がさらに安くてだいたい¥3500、というのが、2000年代の僕の感覚であった。
ビービーの魅力は、安さだけじゃない。「感じの良さ」が天井を突き抜けてくる「えげれすのおばちゃん」が、「我々って100年前から知己だったっけ」くらいの暖かさで、「こぼれ落ちたら拾い集めるの大変だから、もうそのくらいで良いですよ」と止めたくなるほどの笑顔で、出迎えてくれるのが、ビービーの醍醐味なんである。
ビービーは、ひとつひとつ、ドアベルを鳴らし、出てきた宿主に宿泊可否を聞いて回らなければいけない。
一軒め。出てきたのは、ムスッとして、愛想のカケラもない、中国人オヤジ。
「今夜空きありますか?(いや、あっても、頼まない)」
「…」
(スマホ自動翻訳の画面を見せてくる)
「(没有メイヨー)」
ホッとしつつ、インバネスまでも、「非えげれす人宿主」が進出していることに驚く。ロンドンとかマンチェスターとかの都市部なら、もはや、えげれす人宿主の方がレアなんだが。
二軒目。今度は中東イスラム系女性が登場。あっけなく断られる。
むぅ、参ったぞ。10軒くらい訊いたけど、全て、「ダメ」か、そもそも「やっていない」か。二月だし観光シーズンじゃ無いし、仕方ないか。いやでも困ったぞ。
何度目かのドアベルを鳴らす。お!初めてのえげれす人おばちゃんやないか!
えげれす人おばちゃんなら誰でも、標準装備している「満面笑顔」は、その片鱗は見えるものの、何かしらの不具合が看取される。
「今夜空きありますか?」
「今ねえ、風邪ひいて寝ているのよ」
「あら、そんな時にすみません(だから「全開笑顔」じゃなかったのか)」
断られるのかと思いきや、
「もしあなたが構わないのであれば…」
「はい」
「どうぞお泊まりを」
「!」
徐々に「通常モード」を取り戻してきたのか、おばちゃんのホスピタリティと笑顔レベルの数値が上がってくる。
「あなた、お名前は?どちらから?」
「玲です。日本から」
「L, …, R…?」
「Ryoです」
「日本人には、LとRが難しいのよね」
「よくご存じで!あの天井の「light」と右の「right」は、我々には区別できないんですよ」
なかなかの知性のようだ。そういえば、発音がやたらにきれいだし、確実に、ミドルクラスなんだろうな。
「朝食はどうします?」
「もちろんフルでお願いします」
「食べられないものはある?ハギスは大丈夫?」
「もちろん大丈夫、【フル】のスコティッシュブレックファーストでお願いします」
「OK(笑)」
部屋は、「絵に描いたような」「正統の」ビービーであった。朝食付き一泊£40(¥8000)は、当時の感覚値よりは高いが、倫敦やアバディーンの素泊り¥12000よりは安い。しかも、正統部屋と、正統おばちゃんである。これは素晴らしい。完全に当たりだぞ。
さて明日はスコットランドの秘境、北西部を周ります。