えげれす通信、再び

20年ぶりに復活しました

【新】えげれす通信2023_vol05:北の国から編 (16/02/2023)

明日ロンドンに帰るので、本日2/16はダーラム最終日。本日は、ダーラムの懐かしい場所を散歩することに決めた。ただその前に、何点かの「基本的事項」をクリアする必要が出てきた。

 

①トイレ問題
これはさほどの問題ではなかったが、深い記憶を蘇らせてくれた。えげれすトイレにはさまざまなトラップが仕込まれており、利用者はその都度、それらを克服していかねばならない。克服できなければ、先へ進むことができない。

 

師匠邸のトイレは全部でたぶん三つくらいあって、僕にあてがわれた部屋は3階なんだけど、とりあえずその部屋にはバストイレがある。そして、師匠邸は隅々まで全てが行き届いている家なので、トイレに関するトラップもほとんどなく、初心者でもクリアできる。ただ一点、「流し方」にはコツがあり、そのコツを会得しないと、コトを終えた後、呆然とすることになる。

 

一見何の変哲もないトイレ

トイレのおなじみのハンドルを回す。ただこれは、独特のリズムと呼吸を体得したうえで、相当の力を一瞬に込めて、一気に「…グリン」とやらねばならない。不正解な間合いだと、水は一瞬「ちょぼちょぼ」と流れるだけで、なんというか「アタリ」が来ないのだ。

 

日本の優しいトイレは最近では電気式のボタンになっていたりして、あれはただの「オン/オフ」だから、コツも何もない訳だ。そういう「堕落した環境」に慣れきったヤツは、「ニンゲンのマニュアルな技倆と生きるための本能に全てが委ねられた環境」であるえげれすを生き抜くことはできない。本来、「水を流す」というのは大変なことであり、ボタン一つでできてしまうのは、文明の進歩によるものなのだ、ということを考えさせられる。

 

北の国から、みたいだな

 

ちなみに、師匠邸は大丈夫だが、トイレトラップの別なやつは、「一度流してしまうと、次に水が満タンになるまで、気の遠くなるほどの時間がかかる」というやつ。ダーラム最初のホテルがまさにコレだった。

 

そこは共用のバストイレなので、一人がその場所を長時間占拠するのはまずい。しかしそのトイレの「水溜め」は、相当ハイレベルなチョロチョロだった。

 

しかし、僕はそこで、絶妙な工夫を考案し、トラップを克服した。

 

ふと見たら絶妙な壺があるではないか

これに水を入れてトイレの貯水槽に人力補充をすれば良いじゃないか。

 

ヌルい環境に慣れきった、堕落した日本人のワタクシでも、かつてえげれすの曠野を切り拓いてきた経験は、何処かに根づいていたんだろう。

 

他には、

 

・個室に入ったら紙が無い
(これは実はえげれすではさほど多くない)
・個室に入ったら盥に水が入っている
(これは当然ヨーロッパ以外の国)
・個室に入ったら便座だけが無い
(空中椅子のスキルを要する)

 

などなど、昨今、日本を訪れる外国人に称賛されて得意気になっている、ぬるま湯のトイレ環境に慣れきった日本人は、その都度、経験値と創造的発想を存分に繰り出すことを余儀なくされる。

 

②暖房問題
今年のえげれすはそれほど寒くないので結構助かっているのだが、えげれすの家ってのは、とにかく寒いのだ。暖房は基本的に「温水循環」による。一日の初めに熱湯をたくさん作って貯めて、あとは、家中に張り巡らされた水管を通って熱湯が循環する。なので、家の何処の部分も満遍なく、暖かい。そう、確かに、じんわり、暖かい。

 

ただ、逆に言えば、じんわり暖かいだけで、的確な温度調節、などというコザカシイことには対応できない。暖冬で生ぬるい日差しが差し込むような日でも、

 

じんわり

 

打って変わって、今がまさにそうなのだが、暴風が吹き荒れるめちゃくちゃ寒い日でも、

 

じんわり

 

泰然自若。何も変わらない。微動だにしない。ごちゃごちゃ抜かすな。逆にすがすがしささえ感じる一本気である。日本でありがちな、クーラーや暖房の設定温度争いなんてものは、「何それ、美味しいの?」くらいの取るに足らないものである。個々の部屋に個々の暖房器具が完備されている、なんてことは全くアリエナイので、「設定温度争い」などという堕落したことに気を奪われる日本人は、

 

寒さを凌ぐとはどういうことなのか
(やはり、北の国から

 

この、人としての根本を考えさせられることになる。

 

③風呂
さて、大トリがコレだ。えげれすで「風呂プロセス」を、日本人が思い描く通りに完遂させるのは、ラスボスを倒す並みに大変なことである。

 

師匠邸のバスは、えげれすではアリエナイほど行き届いているので、本来ならこのラスボスは、激弱なはずだった。

 

しかし現在、たまたまだけど、シャワーが壊れているらしい。ちなみにモノゴトがよく「壊れる」のも、広い意味でのえげれすトラップのひとつなので、ある意味、全ては繋がっている。

 

さて、シャワー無しバスをどのようにクリアするか。これはまずまずのラスボスレベルである。

 

しかも、

 

例の「ツープラトン蛇口」

キター
アツアツの熱湯とヒエヒエの冷水がそれぞれ別個に出てくるヤツ。

 

ただし、えげれすで数々のトラップを克服してきたワタクシに死角はないのだ。これはね、特に髪を洗った後にね、

 

(1)背泳ぎ態勢を取る
(2)目を閉じて鼻をつまむ
(3)そのまま潜水(完了)

 

シャワーがなくてもこの奥義で乗りきれるんだよね。

 

それじゃ、最後のススギができないー
泡だらけのお湯で流してそのままなのー
真水で洗いたいよー

 

などと、軟弱で寝ぼけたことを言いがちな日本人は、ヒトが生きていくうえで最も大切な精神を学ばねばならぬ。それは、

 

Never mind(気にしない)

 

で、ある。というわけで、僕の経験値で難なく倒せるはずだった師匠邸バスだが、モノゴトは起きるもの(Things happen)である。

 

お湯がココロボソイ

 

これも、数あるトラップの中のひとつである。そして上でも書いた通り、全ては繋がっているのである。

 

えげれすでは、「熱湯を沸かす」のは、「必要に応じて」ではなく、「一日一回」が基本である。必要な時に適温のお湯の適量が難なく手に入るような、文明の利器に埋没しきった日本人は、

 

お湯ってものはどれだけありがたいことなのか
(やはり日本人は全員、北の国からを見直さねばならぬ)

 

この、至極アタリマエなことを再考させられるのだ。

 

「熱湯作り」が「一日一回」ということは、「使えばなくなる」ということである。

 

そらそうだよね。
買い置きの米だって、使えばなくなる。
醤油だって、使えばなくなる。
お湯だけが、なくならないものだとどうして言えようか(否、そんなことは言えない)。

 

このアタリマエの反実仮想が容赦なく技を仕掛けてくる。技の内容は、

 

最初は熱いが気づけば冷水

 

もう、これに尽きる。「機械を信じたら負け」の国えげれすにあっては、最初、お湯加減を確認した時「適温だ」と判断しても、それだけでは負けが確定してしまう。大事な確認はもう一つ、

 

コイツは果たして最後まで適温なのか?
(お湯が無くなるのではなかろうか?)
(お湯ってのは「使えばなくなるモノ」だったのでは無いか?)
(欲しいモノが欲しい時にすぐに手に入ると思うなよ。北の国からを見ろよ)

 

これをしなければならない。

 

「お湯も貯まったし、さて、風呂に入ろうかな♪」

 

と思って、裸になってバスタブに入ったら、

 

!!!

 

ということは、まま、ある。そして、一瞬で凍えたあなたの身体を、強めに暖めてくれる器具など何処にも存在しない。それは、いつもと変わらず、「じんわり」してくれるだけのシロモノである。この国では、機械を信用し、確認を疎かにした怠惰な者は、屍を晒すことになる。しかし、同時にここは「自己責任」の国。それは、「機械を信じ」「確認を怠った」、浅はかで思慮の足りない人間の、当然の報いである。機械というのは、あくまでも、「人間の生活を便利にしてくれるもの」であり、「そのために人間が作ったもの」であるが、「人間が作ったもの」だけに、「壊れることだってある」わけだ。人間というのは、それほど万能で完全無欠なものではない。人間とは「それなりのもの」である。これがまさに、「イギリス経験論」である。おい、新古典派さんよ、聞いてるかい?

 

師匠邸のバスの「温度」と「残量」に関しては、

 

・初日(途中から冷水)
・二日目(初めて適温適量の風呂に浸かれる)
・三日目(振り出しに戻る)

 

一勝二敗。だが、えげれす暮らしも既に四日が過ぎ、かつて自然の曠野を切り拓いてきた「北の国から精神」が呼び覚まされているワタクシとしては、

 

Never mind (気にしなーい)

 

「二敗」を気にするな。
「一勝」のありがたさを噛みしめろ。

 

That’s very British. ヒトが生きるって、まさにこういうことやね。

 

…というわけで、ニンゲンとしてやるべきことを遂げたワタクシは、懐かしきダーラムの街を逍遥致しました。

 

Durham Cathedral①

 

Durham Cathedral②

 

Durham Cathedral③

 

Durham Market Place

 

Tyne Bridge

 

New Castle Upon Tyne

 

New Castle Station

 

では、明日、ロンドンへ戻ります。